第287章 取引

なんのことはない、この男こそが本日のコンクールの審査員――朝井慶隆その人であった。四十代半ばにしてはまずまずの若さを保ち、引き締まった体に整えられた口髭を蓄えているが、糸のように細い目には淫靡な色がねっとりと渦巻いている。彼の両手は笹野美沙の肢体をせわしなく這い回りながら、言い訳がましく口を動かした。

「審査だって、俺一人の一存で決められるもんじゃない。俺にだって一票しかないんだからな。それに、あの山口夏美は山口美崎の直弟子だし、踊り自体もミスがなかった。お前のところの生徒たちはどうも実力が安定しないな。後の方で滑った子もいただろ。転ばなかったとはいえ、明らかに動きが違っていた。他の審査員...

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