第5章 山口家長女

もしかして、あの家庭教師を募集していた石田さんだろうか。でも、この状況はどう見ても違う……。

一方、一歩遅れた石田さんの運転手は、その場で人を探していた。交差点で待っていると言っていた夏美さんはどこへ行ったんだ?

彼自身、石田さんが見込んだこの家庭教師を逃してしまったことにまだ気づいていない。

中島夏美は少し疑問に思ったが、すぐに自分を納得させた。

お金持ちの家に多少の変わり者がいるのは普通のことだ。もしかしたら、有り余るお金を持て余しているだけかもしれない。

彼女はまだ、車窓の景色をのんびり楽しむ余裕があった。

ほどなくして、マイバッハはプライベートガーデンへと滑り込んだ。

風光明媚で、築山が趣深く配置されている。一目で名匠の手によるものとわかり、そのまま5A級観光スポットにできそうなほどだ。

中島夏美は目を見張った。中島家は新一級都市であるW市ではそれなりに名の知れた家だが、目の前の庭園と比べては実に見劣りする。さすがは高級官僚がそこらじゅうにいて、富豪が牛の毛ほどいると言われる華京市だ。

アプリで適当に見つけたアルバイトの雇用主が、これほどまでに豪勢だとは。

この立地、この美的センス!

車は、中国と西洋の様式が融合した城のような邸宅の前で停まった。

「お嬢様、どうぞ」

中島夏美が車を降りると、ずらりと並んだボディーガードとメイドたちに出迎えられた。

城の大きな門が開かれている。

胸の鼓動を感じながら中へ入ると、まるで映画のセットのようだ。

あまりにも丁重で、まるで名家のテレビドラマでお嬢様がお屋敷へ帰還するシーンのようだった。

城のような家、豪華な内装、著名な書画や骨董品。中島夏美はさりげなくそれらを眺めながらも、表情は崩さない。

ソファには二人の女性が座っていた。

一人は髪が真っ白な老婦人で、紫檀の杖をつき、月白色に金の刺繍が施された唐装を身にまとっている。

もう一人は、端麗で秀美な奥様だった。手入れが行き届いており、三十代にしか見えない。深い紫色の花鳥紋が描かれたアンティーク風のチャイナドレスをまとい、耳には一点の緑鮮やかな翡翠が輝き、細い首筋にかかるインペリアルグリーンの数珠と見事に調和している。華京市の一等地のマンションが買えるほどの宝飾品も、彼女の輝く美貌を少しも隠せていない。

なんて綺麗な美人なんだろう、と中島夏美は心の中で感嘆した。

どうしてか、少し見覚えがあるような気がする。

この大美人が、予定より早く帰宅した山口美崎だった。

山口美崎は中島夏美が入ってくるのを見ると、感激したように立ち上がった。

彼女は中島夏美に歩み寄ろうとしたが、踏み出した足をまた引っ込めた。その優れた教養が、彼女が取り乱すのを寸前で押しとどめた。

この少女は、本当にそっくりだ。彼女が脳内で描いてきた、娘が成長した姿に。

老婦人の方がずっと落ち着いていた。彼女はただ少し目を見開き、老眼鏡越しにこの若い少女をじっくりと観察した。

立ち居振る舞いはおっとりとしていて、良い教育を受けてきたようだ。

「お座りなさい」

老婦人は手を振って中島夏美に座るよう促した。

山口美崎も気持ちを落ち着けて腰を下ろした。

「お嬢さん、あなたの血を少しいただくわ。少し痛むかもしれないけれど」

老婦人の声は穏やかでありながら、威厳を帯びていた。

その言葉が終わらないうちに、どこからともなく白衣を着た医師と看護師のような一団が現れた。医療用の箱や機材を手にソファの傍らに立ち、中島夏美から採血して検査する準備を整えている。

「いいですよ」中島夏美は頷いた。いきなり入社前の健康診断とは。

看護師はすぐに中島夏美の指先から一滴の血を採り、可愛いキャラクターの絆創膏を貼ってくれた。チクリと微かな痛みが走る。

「お名前は?」

「中島夏美です」

老婦人はにこやかに言った。「中島夏美……ご心配なく。これは通常の手続きだから」

「はい。でも、私のピアノの腕前を試していただく必要はないのでしょうか?」

中島夏美は指先のピカチュウのシールを見つめた。今の健康診断って、血が一滴あれば十分なのだろうか。

「ピアノも弾けるの?」山口美崎は心中の興奮を抑え、好奇心から尋ねた。この少女について、少しでも多く知りたかったのだ。

「はい」中島夏美は違和感を覚えた。ピアノを教えるために呼ばれたのではないのか?なぜそんなことを聞かれるのだろう。先ほどの電話の声は、この美人のように婉麗で聞き心地の良いものではなかった気がする。電話の音質のせいだと思っていたが。

「そう、そうなのね。里親の方がとても良く育ててくださったのね」

「!どうしてそれを?」さすがに若さゆえか、中島夏美は驚いて目を丸くした。まさか、私の個人情報を根こそぎ調べ上げたっていうの?

「ここへ何をしに来たか、ご存じないのかしら?」まさか甥が何も説明せず、そのまま連れてきてしまったとでもいうのか。

「ピアノの家庭教師をしに来たのですが」まずい、何か誤解があるのかもしれない。彼女たちは人違いをしているのでは。

「はっはっは」老婦人は笑い出した。「きっと拓海だわ、あのろくでなしがちゃんと説明しなかったのね。本当に仕事が雑なんだから」

「お嬢さん、あなたは最近、実の親を探しているそうじゃない?うちも子供を一人失くしていてね、ちょうどあなたくらいの年頃なの。私たちがあなたを探したのがどういう意味か、わかるかしら」

中島夏美はさらに驚き、言葉も出なかった。ただ山口美崎をじっと見つめる。確かに、どことなく似ている気もする。この人たちが、私の本当の家族なのだろうか?

その時、親子鑑定機の検査結果が出た。スクリーンには、巨大な「99.999……%」の数字が表示されている。

医師の声は興奮していた。「山口様、奥様、直系の血縁者である可能性は99%を超えています!彼女は、ご主人様と奥様の実の娘さんです!」

「本当かい!」

その確証を聞き、スクリーンに映る巨大な「99.999……%」の数字を見て、老婦人も落ち着いてはいられなかった。嬉しさのあまりソファから弾むように立ち上がる。その年で、と中島夏美は心配して手を差し伸べようとした。

しかし彼女は、その中島夏美の手をぐっと掴んだ。「夏美!やっと帰ってきた、やっと帰ってきたのね!天は見ていてくださった、天は見ていてくださったわ!我が山口家の血筋が、ついに家に戻った!」

「夏美、お前の名字は中島じゃない、山口だ!お前は私たち山口家の小さなお姫様なんだよ!」

山口美崎も一気に涙を抑えきれなくなり、溢れ出してきた。「私の、夏ちゃん!」

「山口夏美?」

二度の人生を経て、彼女は初めて自分の姓が山口だと知った。

「では、あなた様はおばあ様?そして、あなたは……?」

中島夏美は山口さんを見て、それから山口美崎に視線を移した。このお姉さんのような人を、どう呼べばいいのかわからない。期待と少しの恐れが入り混じる。

「夏ちゃん、私よ、あなたのお母さんよ!」

山口美崎も二歩で駆け寄り、山口夏美を抱きしめて泣き始めた。

「お母さん!」中島夏美は温かく甘い香りのする母親に抱きしめられ、心の中がこの上ない幸福と満足感で満たされるのを感じた。彼女も山口美崎を抱きしめ、目頭を赤くした。

これまで受けた数々の仕打ちは、彼女が一人で強く耐え、黙って我慢するしかなかった。

なぜなら、中島さんはもう彼女の母親ではなかったから。幼い頃のように、抱きしめて慰めてくれることはなかった。

今、山口美崎の腕の中で、山口夏美は幼い頃に母の腕の中で甘えて愚痴をこぼした気持ちを、一気に取り戻した。自分を可愛がってくれる人がいるとわかるからこそ、子供は泣き、どうしようもなく悔しいと感じるのだ。自分を愛し、支えてくれる人がいるのだから!

「ええ!私の可愛い娘、お母さん、会いたくてたまらなかったわ!」

「可愛い孫よ、ではわしは?」山口さんはやきもちを焼いた。いくら祖母が生みの親に敵わないとはいえ、可愛い孫がここまであからさまにえこひいきするなんて!

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