第7章 初めての驚き
コードに集中する彼女は、それに気づかなかった。
岡本凜太郎がまず気づいたのは、彼女の繊細で、舞うように動く指だった。
実に見事な手だ!
タイピングのリズムは心地よく、指は玉ねぎの白い根のようにすらりとして、艶やかなピンク色の爪が小さな虹色の光点を反射させ、一瞬、少年の目を眩ませた。
熟練のキーボードウォリアー、いや! コンピュータの達人と言うべきか。キーボードを叩くリズムから相手の実力を見抜くことができる。
明らかに、この見知らぬ少女の実力は並ではない。
岡本凜太郎はそこでようやく視線を彼女の顔に移した。少女の顔立ちは精緻で、切れ長の目、その眼差しは真剣そのもので、表情はなく、どこか冷艶な雰囲気を漂わせている。
彼女はスモーキーパープルの香雲紗のドレスを身にまとい、裾は長く、透けるように白い足首がわずかに覗いている。まるで美しくも儚いクラゲのようだ。
山口夏美は、そこでようやく入口に来客があることに気づいた。
若いクールな男の子で、目元や眉尻からは人を寄せ付けない冷たさが滲み出ているのに、今は口元に笑みを浮かべている。
ああ、この個室は従兄の山口拓海が使わせてくれたものだった。
明らかにこの人は店員ではないし、個室のカードキーも持っている。きっと従兄なのだろう。
「従兄さん?」
岡本凜太郎の口元が引きつり、笑みがさらに深まった。「うん」
彼はどっちつかずの返事をすると、無造作に入ってきて自分の指定席に腰を下ろした。
実はこの個室は、彼ら仲間内でオンラインゲームをするために長期契約している部屋だった。ただ、今はまだ新学期が始まっておらず、山口拓海も岡本凜太郎が突然現れるとは思っていなかったため、新しく来た従妹に貸してやったのだ。
この安請け合いの従妹、山口拓海はまだ会ったこともないが、家の爺様から「とにかく可愛がれ」と念を押されており、彼も求められれば応じるしかなかった。
岡本凜太郎は、実のところ近くを通りかかっただけで、急にゲームがしたくなり、仲間たちを呼ばずに一人でやって来たのだった。
まさか思わぬ収穫があるとは。この山口家の従妹、意外と彼の好みに合う。
岡本凜太郎の灼けつくような視線に晒され、山口夏美は少し居心地が悪くなった。
彼は横にいるので画面は見えないはずだが、山口夏美はそれでもダークネットの画面を閉じた。
まだ、誰にも知られたくなかった。
「終わった?」岡本凜太郎が自ら口を開いた。
「ええ、従兄さん、何かご用ですか? 個室を貸してくださってありがとうございます」
「大したことじゃない。CSはできるか?」
これは本当に得意だった。「できます」
「俺と一局付き合え」
この従兄、ずいぶん馴れ馴れしいな。山口夏美は彼を一瞥した。やはりどこか奇妙な笑みを浮かべている。
「いいですよ」山口夏美も気取った態度はとらない。ちょうどいい気晴らしになるだろうし、それに、自分は下手ではない。
岡本凜太郎は、実はまったく馴れ馴れしい性格ではない。彼が自ら女の子に話しかけるのは、これが初めてだった。
二人はすぐに一局始めたが、驚いたことに初めての協力プレイとは思えないほど息がぴったりだった。
君が援護射撃、僕がアイテム漁り。君が窓から飛び降りれば、僕が手榴弾。
実に爽快だったが、どうやらこの少女は少々負けず嫌いらしく、彼とキル数を競い、互角に渡り合おうという気配がうっすらと感じられた。
再び彼が敵と狙撃戦を繰り広げていると、山口夏美が路地の端から現れてキルを一つ掻っ攫っていった。
「いい判断力だな、従妹」岡本凜太郎のこの「従妹」という呼び方には含みがあり、彼はますます興味をそそられていた。
「あなたも悪くないわ、従兄さん」山口夏美は彼の侵略的な視線を真っ直ぐに見返し、少しも怯まない。
プレイしていくうちに、二人の間にはどこか相通じるものが芽生えてきた。実力のある者は、やはり一目置かれるものだ。CSはただのゲームだが、そこにはその人の戦略的思考や反応能力が表れる。
最終的に、二人は大勝利を収めた。
山口拓海のこの従妹、小柄に見えるが、あの馬鹿でかい山口拓海よりずっと腕が立つ。
「私、まだ用事があるので、これで失礼します」
「送るよ」
「いえ、結構です。運転手が待っていますから。さようなら、従兄さん」
「ああ。次の再会を楽しみにしてるよ、俺の……従妹」最後の言葉は、岡本凜太郎が囁くように、とても低く言った。
山口夏美はもう部屋を出るところで、まったく聞き取れず、ただの社交辞令だと思い、手を振って別れを告げただけだった。
少女が去った後も、岡本凜太郎はその余韻に浸っていた。
彼は携帯を取り出し、山口拓海にメッセージを送った。『お前の従妹、なかなかいいな』
山口拓海:『凜太郎兄さん、逍遙遊に行ったのか。なあ! その従妹ってどんな顔してるんだ? 伯母さんのレベルを考えたら、実の娘もそう悪くはないと思うんだが?』
岡本凜太郎:『クラゲみたいだ』
なんだその奇妙な比喩は。人間がクラゲみたいとはどういうことだ?
エイリアンのように醜いとでも?
まさかな。少なくとも鼻一つに目二つはあるだろう。
巷では、例の従妹は表舞台に立てないから山口家も公表しないのだと噂されている。やはり遺伝子の突然変異だったのか。
山口拓海:『兄さん! 兄さん! どうかお手柔らかに! 俺の従妹を泣かせないでくれ! 千の過ちも万の過ちも全部俺のせいだ、彼女にパスワードを渡して行かせたのは俺なんだ!』
岡本凜太郎:『泣いてない』
この馬鹿犬め。話す気も失せる。自分より何も知らないくせに。
山口夏美が帰宅し、夕食の時間になった。
珍しく家族全員が食卓に揃っている。
山口誠司:「夏美ももうすぐ新学期だな?」
山口美崎:「Q大学の入学式はまだ一週間先よ」
山口豪:「妹はW市で勉強してたのにQ大学に受かるなんて、本当にすごいな」
山口豪は最近、すっかり妹賛美者になっていた。何でも妹はすごい、俺の妹はこんなに賢くて綺麗なんだから、どこの馬の骨が釣り合うものか、お前ごときが俺の妹の情報を聞き出そうなどと? 妹に会いたいだと? 失せろ! といった具合だ。
山口誠司は感心したように山口夏美を二、三度見やった。「専攻は何だ?」
「演技学科です」
山口夏美は子供の頃からテレビを見るのが好きで、様々な美しい衣装をまとい、異なる時代背景で愛憎劇を演じる俳優に憧れていた。
だから専攻を選ぶ時も、自然と演技の道を選んだ。どうせ彼女の家の裕福さなら、好きなことを何でもできる。以前の中島夫婦も、彼女が夢を追うことを応援してくれていた。
ただ、中島結子が横槍を入れてくるとは思わなかった。前世では、中島結子は中島家に戻った後、姉と同じ学校に行きたいと駄々をこね、中島父は大金を払って彼女をQ大学にねじ込んだ。
それだけでなく、中島結子はあらゆる場面で彼女を貶め、彼女をヒロインに選んだ制作チームを潰した。
さらに彼女が偽物のお嬢様であることを暴露し、彼女に汚水を浴びせるような記事を流させた。鳩が巣を乗っ取るように、中島家の実の娘でもないのに家で威張り散らし、本物のお嬢様である中島結子をいじめている、と。
ネットユーザーは真相を知らず、生まれながらにして本物のお嬢様に肩入れする。それに、もっともらしい記事が加わり、中島結子がさらにいくつか虐げられる猫かぶりの役を演じたことで、ネットユーザーは彼女に同情し、山口夏美に対しては憎しみを募らせ、様々な人格攻撃や耐え難い罵詈雑言を浴びせた。
山口夏美は、本当はもう前世の悲惨な出来事を思い出したくなかったが、いくつかの場面がどうしても脳裏に蘇ってしまう。
「君のお母さんもQ大学の舞踊学科だったんだ。君たち母娘はまさに一脈相通じているな」
山口夏美は頭の中の映像を振り払い、キラキラした目で頬杖をつきながら母を見た。「誰がお母さんの実の娘だと思ってるの」
そうだ。今、彼女には自分を愛してくれる父と母がいる。しかも二人とも、とてもすごい人たちだ!
もう中島家で屈辱に耐え、あの偽りの親情を求める必要はない。
前世のように、中島結子に何度も我慢することもない。彼女は全てを奪い返すのだ!
「Q大学にはうちも口が利ける。ベイビー、何か要望があったら何でも言いなさい」
山口夏美は頼もしい父に甘く微笑んだ。「ううん、大丈夫よ、お父さん。私、やれるから」
山口誠司は、素直で美しい愛娘を溺愛するような眼差しで見つめ、心がとろけそうになった。「そうか。ベイビーが大丈夫だと言うならそれでいい。だが、何か困ったことがあったら必ず父さん母さんに言うんだぞ。この私、山口誠司の娘に、少しの辛い思いもさせられんからな!」
