第1章
七海視点
シャワーセットと着替えを抱え、僕はバスルームへと向かう廊下をそろそろと歩いていた。寮の四階は、僕のルームメイトで、まるで眠らないサッカー部のチームキャプテン、和也の部屋から聞こえるかすかなページをめくる音以外は、しんと静まり返っている。
『このフロアがほとんど空でよかった』。金持ちの連中のほとんどは、キャンパス外のおしゃれなマンションにさっさと引っ越してしまい、この古びた寮には僕ら奨学生が取り残された。別に気にしてはいない――むしろ、常に背後を気にすることなくシャワーを浴びられるってことだから。
バスルームのドアを押し開け、あたりを見回す。誰もいない。思った通りだ。
夜のこの時間はたいてい安全だ。和也は午前一時より前に寝ることはないし、このフロアにいる他の数少ない男たちも、パーティーに出かけているか、とっくに寝ているかのどちらかだ。
「完璧」と僕はささやき、中に滑り込むと背後でドアに鍵をかけた。
オーバーサイズのパーカーと、一日中つけていたスポーツブラを脱ぎ始める。毎晩同じだ、安堵と、純粋な恐怖が入り混じった気持ち。二十分。それが、僕が僕自身でいられる時間。鏡の中に本当の自分を見て、また仮面をかぶり直すまでの、ほんのわずかな時間。
熱いシャワーが肌に当たると、最高の気分だった。何時間も教科書とにらめっこした後だから、一日中これを心待ちにしていたんだ。胸を締め付けることも、声を低くすることも、何も気にせずにただ存在できる、ほんの数分間の貴重な時間。
その時、お湯が氷のように冷たくなった。
「なんだよ~」僕は息をのみ、蛇口に手を伸ばした。
だが、ハンドルは動かない。バルブは完全に固着していて、湯気が晴れていく中、冷たい水が絶え間なく降り注いでくる。
『だめ、だめだめだめ。今だけは。裸で、廊下の向こうにはまだ人が起きているっていうのに……』
もう一度、ハンドルを力任せに引く。びくともしない。金属は古びて錆びついていて、おそらく昭和時代から交換されていないのだろう。
「誰か!」僕はシャワーカーテンを掴んで体に巻きつけながら叫んだ。「シャワーが止まらないんだ!」
廊下を歩く足音が、だんだん近づいてくる。薄いビニールを体に巻きつけながら、心臓が狂ったように鳴っていた。
「七海? 大丈夫か?」
ドアのすぐ外から聞こえる、和也の低く、心配そうな声。
「シャワーが止まらないんだ!」僕は声を平静に保とうと努めた。「どこか壊れたみたいだ!」
「入るぞ。マスターキーを持ってる」
『最悪だ』。もちろん彼はマスターキーを持っているだろう。チームキャプテンはいろいろな特権がある。彼に直してもらう必要はあるけど、もし彼が見るべきじゃないものを見てしまったら……。
『まだ湯気は残ってる? お願い、まだ十分に湯気が残っていて』。
ドアが開き、和也が工具箱を持って入ってきた。バスルームはまだ湯気が立ち込めているが、僕が望んでいたほどではなかった。彼はシャワーの備品に視線を固定し、意図的に僕の方を見ないようにしている。
「どこが問題だ?」と、彼はあくまで事務的な口調で尋ねた。
「バルブだ。完全に固まってる」
彼はシャワーヘッドの方へ移動し、配管をチェックし始めた。僕はカーテンの後ろに隠れ、背中を壁に押し付けながら、彼が早く直してくれることを祈った。
彼がバルブに手を伸ばして作業をしようとした、ちょうどその時。隙間風がカーテンの端をめくり上げた。
和也視点
薄いカーテンと消えかけた湯気の向こうに、七海の輪郭が見えた。柔らかな曲線、細い腰.......明らかに、男の体じゃない。頭が真っ白になって、レンチを落としそうになった。
七海は、女だった。一年以上ルームメイトで、よく知っていると思っていた相手が、実は女だったなんて。
七海視点
和也の手が完全に止まるのが見えた。彼の体全体が硬直したが、背中を向けているので表情はうかがえない。
『何か見られた? 様子がおかしい。もしかして、思ったより直すのが難しいだけかも。落ち着け、七海』
「どう?」と、僕は普通を装って尋ねた。
彼は咳払いを一つして、作業を続けた。「もうすぐだ。あとは……よし」
ついに水が止まった。突然の静寂が耳をつんざくようだ。
「ありがとう、和也。助かったよ」
「問題ない」と彼は言ったが、その声は強張っているように聞こえた。「あとはゆっくりしてくれ。またおかしくなったら、ハンドルを揺すってみてくれ」
彼は一度も振り返ることなく、電光石火の速さで道具を片付けた。
「おやすみ」
「おやすみ」
ドアがカチリと閉まった。僕はようやく息をすることができた。
その後、僕はベッドに横になり、天井を見つめていた。服を着て、いつもの仮面をかぶり直したというのに、何かがまだおかしい気がした。
『今夜の和也は変だった』
いつもなら、この寮の何かを修理すると、古い配管について冗談を言ったり、大学の安っぽいメンテナンスに文句を言ったりするのに。今夜はほとんど二言三言しか話さなかった。それに、まるで何かに追われるように慌てて出て行った。
寮の壁は紙のように薄い。隣の部屋の音はほとんど何でも聞こえる。いつもなら、今頃の和也は本かラップトップに向かって落ち着いているはずだ。なのに、彼が部屋を歩き回る音が聞こえる。
『彼も眠れないのかな。明日の練習のことでストレスが溜まってるのかも。チームキャプテンでいるのも楽なことじゃない。考えすぎるな』
でも、今夜何かが変わってしまったという感覚を、どうしても振り払うことができなかった。
彼が去り際に言った「おやすみ、七海」という言葉――その口調には何か、今までとは違うものが混じっていた。一度も聞いたことのない何かが。
壁の向こうで、またガサガサと音がする。それから、足音。
『彼も絶対に眠れていない。まるで何かが変わってしまったかのように、僕ら二人ともここで目を見開いたまま横になっている。でも、何が変わったのかが分からない』
僕は寝返りを打って頭を空にしようとしたが、脳裏ではあの場面が何度も再生されていた。和也が作業の手を止めた瞬間。彼がどれだけ慌てて飛び出していったか。そして今、彼の部屋から伝わってくる、この落ち着かない気配。
『壁の向こうで彼が寝返りを打っている音を聞くまで、今夜の出来事が僕たち二人をどれだけ揺さぶったのか、僕は気づいていなかった。そしてどういうわけか、そのことが僕をさらに不安にさせた』
