第6章
木曜日の昼休み、キャンパスの食堂が一番混み合う時間帯。和也がテーブルの向こうから、私の方へとりんごを滑らせてきた。
「そんなことしなくていいよ」私は、彼が果物をこちらへ押しやってくるのを見ながら言った。
「何が?」と彼は尋ねたが、そのかすかな笑みが彼の本心を物語っていた。
「私の世話を焼くこと。私たち、ただの……フリなんだから。覚えてるだろ?」
「そうかもな」と彼は言った。「でも、偽物の彼氏だって、偽物の彼氏がちゃんと食事をとるように気にかけるべきだろ」
周りの学生たちが私たちに気づき始めている。ひそひそ話が聞こえ、視界の隅で指をさす仕草が捉えられる。噂はキャンパスを駆け巡るの...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
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