第116章 彼はあなたの憂さ晴らしの道具ではない

江森美鈴は、あのときヴェールの個室で、切羽詰まった井上虎之介が口にした言葉を思い出した。たしか、あいつも「新谷」と――そう言った。

彼女は目を見開いた警察官に視線を向け、付け足す。

「いま倒産寸前の新谷グループの……お嬢様、新谷理子です」

二宮慎矢と新谷理子が婚約を解消し、新谷グループへの資金注入が止まってからというもの、わずかな蓄えは、賭け事に溺れた新谷理子の父親があっという間に食い潰した。会社は、いまにも息絶えそうな状態だ。

「新谷理子……」

中林さんはその名を反芻し、記憶の引き出しを探るように眉を寄せた。

やがて、はっとした顔になる。

「二年前に亡くなった新谷智也の妹、で...

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