第135章 彼女はすべて忘れた

人が目を覚まさないまま、江森美鈴はずっと集中治療室にいた。

けれど検査の結果、身体のほうはどこも大きな異常がない。皆で交代しながら付き添い、気づけばまた二晩、まともに眠れない夜を重ねていた。

大雪が解けると、北城の春は一気に濃くなる。窓の外では枝先が芽吹き、花まで咲き始めている。

午後の陽が差し込んだころ、江森浅子が立ち上がって窓へ向かい、少しだけ開けた。部屋の空気を入れ替えるために。

カタン――。

窓が開く小さな音に、ベッドの上の指先がぴくりと震えた。十日前の真夜中、あのときと同じように。その微かな動きが、二宮慎矢の指先まで引っ張るように伝わる。

ベッド脇にもたれてうたた寝して...

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