第16章 なかなかやるじゃないか

二宮慎矢は、自分の腕に落ちている江森美鈴の視線に気づいた。苛立つどころか、どこか機嫌がいい。

「痛くない」

江森美鈴ははっと我に返り、慌てて視線を逸らした。

一瞬、本気で疑ってしまった。――この人、もしかして痛めつけられるのが好きなのでは。

さっき、確かに噛まれたはずだ。それなのに、今まででいちばん楽しそうに見える。

ぼんやりした頭の奥で、別の記憶が唐突に浮かぶ。田中実里が二歳のとき、熱を出して薬を飲まされ、田中さんの手を噛んでしまったことがあった。田中さんは病院へ行き、破傷風の注射を打ったらしい。

――私、さっき……かなり強く噛んだ。

背中に回した手をぎゅっと握りしめ、しばら...

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