第55章 田中実里の生い立ちに疑いが向けられる

二宮慎矢は田中実里を腕の中へ引き寄せ、やわらかな声で宥めるように言った。

「ママも一緒に帰るからな」

「……うん」

田中実里はむすっとしたまま、小さく返事をする。

二宮慎矢はやはりどこか面白くない。口元だけで笑い、前の席の加藤へ視線を投げた。

「こういうとき、なんて言うんだっけ」

「え?」

加藤は一瞬きょとんとし、すぐに察して半分冗談めかして返す。

「旦那様、『新しいのができたら古いのを忘れる』ってやつですか」

二宮慎矢の傍に仕えてもう二十年近い。機嫌の揺れなど、指先ほどの違いでも読み取れる。

今の旦那様は、江森さんが友人に付き合って自分を置いていったことが気に食わない。...

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