第85章 江森の父親の出所を迎えに行く

電話を切ってから、江森美鈴はようやく気づいた。身体の横にだらりと下がっていた手のひらに、また深い爪痕が何本も刻まれている。

胸の奥で、かすかな期待がふわりと立ち上がり、あっという間に満ちていく。

ここしばらく、息が詰まるほど重くのしかかっていた沈黙も、少しだけ薄らいだ気がした。

機嫌よく身支度を整え、階下へ降りると、田中実里がソファにうつ伏せになって、ぷくっと唇を尖らせながら絵本をめくっていた。

足音に気づいた途端、子どもの瞳がぱっと輝く。ソファから飛び降りると、こちらへ駆け寄り、小さな両腕をいっぱいに広げた。抱っこして、という合図。

江森美鈴が笑って身をかがめ、抱き上げた瞬間。実...

ログインして続きを読む