第2章

九条雅視点

三時間後。私はプライベートオフィスにいた。目の前には六台の大型スクリーンが煌々と輝き、それぞれに冴島颯斗に関する様々な情報が映し出されている。

トレーニング動画、インタビュー映像、SNSのスクリーンショット、プライベート写真――一週間かけて集めたすべてが、ようやく実を結びつつあった。

冴島颯斗、二十四歳、プロテニス選手。双子の兄である冴島京介とは瓜二つの容姿だが、性格は正反対と言っていい。冴島京介が氷なら、冴島颯斗は炎――情熱的で、衝動的で、感情に支配されている。

私は彼の最近の成績を子細に調べた。彼に見限られ、逆上してチームを辞めた元コーチの山口里音は、エリート揃いのトレーニングチームをごっそり引き抜いていった。サポートを失った冴島颯斗は、先月の重要な試合で惨敗し、世界ランキングは急降下した。

メディアはここぞとばかりに飛びついた――

『堕ちた天才』

『冴島家の失敗作』

『成功するには恵まれすぎた男』

敗戦後の彼の写真にズームインする。いつもは快活なその顔が、悔しさと怒りで歪み、ラケットを地面に叩きつけている。

完璧なタイミングだ。

どん底にいる男が必要とするものは? 理解、支え、そして伤を癒してくれる美しい女。幸運なことに、私はその三つすべてを提供できる。

スマホが震えた。画面に冴島京介の名前が光る。

「どこにいる、雅?」

彼の声は所有欲にまみれていた。

「迎えにくる」

ショータイムだ。Y市へ行く口実が必要だった――そして冴島京介は、そのためのチケットだ。

「オフィスよ。ちょっと投資の件を片付けてるの」

私はわざと疲れたような声を出した。

「Y市で直接確認しなきゃいけないプロジェクトがあって」

電話の向こうが沈黙する。

「Y市? 何がそんなに重要なんだ?」と彼が訊ねる。

「新しいリゾート開発よ」

私は準備していた筋書きを、滑らかに嘘をついた。

「投資家たちが私しか信用してくれなくて、仲介人はダメなの。私がただのお飾りじゃないって証明しなきゃいけないの、わかるでしょ?」

さらなる沈黙。冴島京介が眉をひそめているのが目に浮かぶ。

「住所を送れ。俺も行く」

クソ、やっぱりそう来るか。

「京介、これは大きな案件なの」

私は声を和らげ、震えさせた。

「あなたにふさわしいって、証明したい。いつもあなたが守ってばかりいたら、周りは私のことを……あなたのことを、どう思う?」

「周りがどう思うかなんて知ったことか」

「でも私は気にするわ」私は効果を狙って間を置いた。「お願い、私たちの未来のためにやらせて。すぐに戻るから」

長い沈黙の後。

「君が俺の目の届かないところにいるのは気に入らない」

「三日間だけ」

私は色気をまとって囁いた。

「毎時間メッセージするし、毎晩ビデオ通話もするから」

「本当に俺が必要ないんだな?」

奥の手の時間だ。

「今からあなたのところへ行くわ」

私はコンピューターの電源を落としながら言った。

「直接話した方がいいこともあるでしょ」

一時間後、私は冴島グループ本社の最上階、冴島京介の帝国の心臓部へと足を踏み入れた。床から天井までの窓からは、H市のきらびやかな夜景が一望できる。

「気が変わったかと思ったぞ」

冴島京介が巨大なデスクから立ち上がった。その目はまだ警戒している。

「まさか」

私はわざと腰を揺らしながら、彼に向かって艶然と歩み寄った。

「ただ、直接説明したかっただけ」

私はデスクを回り込んで彼の正面に立つと、ゆっくりと膝をついた。

「雅、何を――」彼の声が掠れた。

「あなたの信頼が、どれだけ必要か見せてるの」

私は彼が強張るのを感じながら、その太腿を滑るように撫で上げた。

「私がただ執着心の強い女だなんて思われたくない。あなたと対等でいたいの」

私は彼のベルトを外し、ズボンのジッパーを下ろした。彼はすでに半ば硬くなっていた。

「もし私を信じてくれないなら……」

私は見上げて、瞳に涙を浮かべていた。

「私たちにどんな未来があるっていうの?」

「クソッ……」

彼は呟き、その手が私の髪に絡んだ。

私は彼を口に含んだ。静かなオフィスに彼の呻き声が響く。私は彼の弱点を知っている――理性と欲望、彼が選ぶのは常に欲望の方だ。

数分後、彼は私を引き上げ、デスクに押し倒した。彼が私のスカートを引き裂き、激しく、速く突き入れてくると、書類が散らばった。

「三日だ」

彼は私の耳元で喘いだ。

「それだけだ。そしたら戻ってこい」

「約束するわ」

私は彼にしがみつき、内心でほくそ笑みながら喘いだ。

男なんて、転がすのは本当に簡単。

その夜、私はY市行きのプライベートジェットに乗っていた。向かいには山口里音が座り、私たちの間のテーブルには冴島颯斗のファイルが散乱している。

山口里音は、前回のビデオ通話で見た時よりもやつれて見えたが、その瞳は復讐の炎で燃え上がっていた。

「これが彼の心理分析プロファイルよ」

彼女は分厚いファイルをこちらに押しやった。

「恐怖、欲望、弱点――全部そこに書いてある」

私はそれを開いた。予想以上に詳細な情報だ。山口里音は彼を隅から隅まで知り尽くしている。

「彼が一番恐れていることは?」

私は尋ねた。

「裏切りよ」

彼女は残酷に唇を歪めた。

「元カノに金のために捨てられてるの。それ以来、人を信じられなくなってる。でも一度信じたら、とことんのめり込むタイプ」

「完璧ね」

私は読み進めた。

「他には?」

「理解されることを渇望してる。誰もが彼の才能は見るけど、プレッシャーは理解しない――家族からの期待、メディアの監視、兄との競争。彼自身を見てくれる誰かが必要なのよ」

私は頷き、すでに冴島颯斗へのアプローチを組み立てていた。

「あなたの計画は?」

山口里音は尋ねた。

「兄弟両方を弄ぶの?」

「当然でしょ?」

私はファイルを閉じた。

「冴島京介はもう夢中だし、冴島颯斗はどん底にいる。私が彼の救世主になって、彼が私を一番信じたときに叩き潰してあげる」

「冴島京介の方は?」

「冴島颯斗を始末したら、兄弟が互いに引き裂き合うように仕向けるわ」

私の笑みは冷たくなった。

「冴島京介が、自分の女に弟のために裏切られたと知ったらどうなるかしらね。そして冴島颯斗は、夢の彼女が実は兄の女だったと知ったら?」

山口里音の目が興奮に輝いた。

「彼は裏切りを恐れている……だから、究極の裏切りを与えてやるのね」

「一石二鳥よ」

私はシャンパングラスを掲げた。

「完璧な復讐に」

飛行機は雲を切り裂き、眼下には闇が広がっていた。だが私の中では、捕食者の興奮が燃え上がっていた。

冴島颯斗、あなたの悪夢は、もうすぐ始まる。

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