第8章

九条雅視点

Y市を、突然の豪雨が襲った。

冴島颯斗は、雨に濡れそぼるテニスのセンターコートによろめきながら現れ、その場に膝から崩れ落ちた。

観客のいないスタジアムには、ゴミや雨で湿った横断幕が散乱していた。

彼はそこに膝をつき、雨と涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らし、髪を額に貼り付かせ、完全に打ちひしがれた様子だった。

傍らにはトロフィーが無造作に転がっており、彼を嘲笑っているかのようだった。

「なぜ……」

彼は空に向かって叫んだ。

「なぜ俺がこんな目に……」

コートの端に、人影が現れた。

傘を差した冴島京介が、膝をつく弟を冷ややかに見つめて立っていた。

「...

ログインして続きを読む