第327章

 高橋逸人は首を横に振った。

 「礼なんか言う必要はない。俺があんたを助けたのは、蛍のためだ。どう転んだって、あんたは蛍を殺しかけた。そのうえで俺たちのために証言したところで、俺はあんたを許す気はない。それに――娘を助けたことで、借りはチャラだ。互いに貸し借りなしってことで……そろそろ、俺の嫁を殺そうとした件の清算をしようか」

 葉田俊夫は顔色を変えた。死にたくはない。今の、普通の人間としてのささやかな幸福に、すっかり溺れてしまっている。とうの昔に、血の気なんて抜け落ちていた。

 「頼む、殺さないでくれ。俺には、まだ使い道がある。まだ話してないことが山ほどあるんだ」

 高橋逸人の瞳の...

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