第9章

「聞いてくれ。頼む」

彼が箱を開けると、中には巨大なダイヤモンドの指輪があった。

「これを買ったのは二年前だ。君が出て行った、すぐ後に」

二年前? 婚約指輪を、二年も前に? 私がもういなくなった後で?

「これを買ったのは、私が何を失ったのか、何を投げ捨ててしまったのかに気づいたからだ。それからずっと持ち歩いてた。この時を……こうして、すべてを正す機会を待って」

「きれいね」と私は言った。そして、それは本当にきれいだった。おそらく、拓也と私の半年分の稼ぎを合わせても足りないくらいの値段だろう。「でも、受け取れないわ」

「どうしてだ?」

「私には夫がいるからよ、良介。私は夫を愛...

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