第4章
貴志が私だけを愛していると公言したことで、場は混沌に陥った。記者たちは質問を浴びせかけ、社交界の婦人たちは恐怖に息をのみ、川崎清美は美しい彫像のように凍り付いていた。
しかし、私の目に映っていたのは、膝から力が抜けそうになるほどの、あの獰猛なまでの激しさをたたえてこちらへ歩いてくる貴志の姿だけだった。
「話がある」彼の声が喧騒を切り裂いた。「今すぐだ」
私が断る間もなく、彼の手が私の肘をつかみ、人込みをかき分けてプライベートエレベーターへと導いていく。
「あなた……正気なの」震える手で、私はかろうじて息をした。「自分が何をしたか分かってるの?」
貴志の笑いは苦々しかった。「ああ。分かってるさ。俺の家族を喜ばせるはずだった、申し分のない結婚よりも、君を選んだんだ」
「あの可哀想な女性に恥をかかせて!」
「恥をかいたのは俺だ!」貴志はくるりと向き直り、私の顔が数インチの距離に迫る。「上流階級の人間に対して、六年も前に俺を捨てた女にまだ未練タラタラだって公表したんだぞ!」
エレベーターが最上階に着くと、静かなチャイムが鳴った。貴志は私を廊下へと導き、プライベートスイートへと入った。
「座れ」貴志は檻の中の獣のように歩き回りながら命じた。
「どこにも座らないわ。帰るから」
「帰せるかよ」貴志の声は静かで、だが危険な響きを帯びていた。「六年前、なぜ俺の前から消えたのか、それを話すまではな。スペースが欲しいとか、自分探しだとか、そんなくだらない言い訳はもう聞きたくない」
貴志は歩みを止め、私の魂まで見透かすような視線で射抜いた。「下で見てただろ、玲奈。俺が清美にキスした時。プロポーズした時。君はまるで心臓をえぐり取られるような顔をしていた。だからもう一度聞く。俺が他の誰かといるのを見るのがそれほど辛いなら、一体なんで俺を捨てたんだ?」
この豪奢な部屋で、愛し続けてきた男性と向き合い、真実の周りに築き上げた壁がガラガラと崩れ始めた。
「本当に、知りたいの?」私の声はひび割れていた。
目を閉じると、突然私は二十二歳に戻っていた。大学町の喫茶店で、冬のように冷たい声をした女性と向かい合って座っている。
「六年前」私は囁くような声で話し始めた。「卒業式の三日前、電話がかかってきたの。会ったこともない人が、私とコーヒーを飲みたいって」
「彼女はエレガントで、洗練されていた。あなたの世界に属している、そういうタイプの女性だった」私は目を開け、貴志を見つめた。「彼女は、私たちを見ていた人々の代理人だと言ったわ。彼女はすべてを知っていたの、貴志。何もかも。あなたの家族信託のこと、あなたの一家の事業のこと、お父様の政治的なつながりのことまで」
「彼女は言ったわ。私があなたを破滅させるって」私の声が途切れた。「彼女は写真を持っていた、貴志。あなたの家の事業のライバルたちの写真を。失敗した取引の証拠を。もし私があなたから離れなければ、私たちの関係を完全に終わらせなければ、彼女はあなたの家族がすべてを失うようにすると言ったの」
「そんなこと、ありえない――」
「彼女は書類を見せたわ。本物の書類。あなたのお父様の会社を潰すための計画書。あなたの家族信託も。あなたが受け継ぐはずだった、すべてのものを」涙が今や私の頬を伝っていた。「彼女は、私が彼らに利用される弱点なのだと言った。私があなたのそばにいる限り、あなたは無防備だって」
貴志は私をじっと見つめた。「それで君は……信憑性を持たせるために、俺から金をゆすり取ったのか?」
「本物に見せなければならなかった。あなたが私を憎まなければ、あなたは決して私を手放さないだろうからって。彼女が台本をくれたの、貴志。あなたに私を心の底から軽蔑させるために、何を言えばいいか、一言一句教えられたのよ」言葉が、喉から引き裂かれるようにほとばしり出た。
「発した言葉の一つ一つが、自分でも憎かった」私は今やしゃくりあげながら続けた。「でも、あなたを守っているつもりだったの。あなたの未来を救っているんだって」
貴志は長い間、黙っていた。
「その女の名前は?」彼の声は、殺意を帯びるほど静かだった。
「教えてくれなかったわ。ただ、彼女が言ったのは、あなたに『相応しい』人生を送ってほしいと願う人々の代理人だってことだけ。相応しい女性と、ね」
貴志はゆっくりと振り返った。「清美のような、か」
「たぶんね」私は震える手で顔を拭った。「貴志、本当にごめんなさい。あなたに話すべきだったのは分かってる。でも、彼女が――」
「見せろ」
「え?」
「書類だ。写真も。まだ持ってるのか?」
私は首を横に振った。「私が……あなたのもとを去った後、彼女が全部回収していったの。『もう証拠は必要ないでしょう』って言って」
「貴志?」私は恐る恐る呼びかけた。
「六年だ」彼はゆっくりと言った。「この六年間、俺が何をしたのか、どうすれば違った結果になったのか、ずっと考えてきた」
「あなたは何も悪くない――」
「そして六年間、何者かが俺たちをクソみたいなチェスの駒のように弄んできたってわけだ」
背筋に冷たいものが走った。「どういうこと?」
「君が俺の前から消えた三週間後」貴志の声は恐ろしいほど冷静だった。「親父の会社が敵対的買収の試みの標的になった。なんとか撃退したが、何億という金がかかった」
「その二年後、最大の顧客が突然契約を打ち切ってきた。また莫大な損失だ」貴志は再び歩き始めた。「去年は、犯してもいない証券取引法違反の疑いで証券取引等監視委員会の調査が入った。そして半年前、俺の家族信託が『定期監査』を名目に運用停止された。その監査はまだ終わっていない」
「何者かが六年間、計画的に俺の家族を攻撃し続けているんだ、玲奈。そしてそれは、君が俺の人生から消えた三週間後から始まっている」
部屋がぐらぐらと回るような感覚がした。「まさか、あなたが言いたいのは――」
「俺たちを引き離したかった奴らは、まさに望み通りの結果を手に入れたんだろう。そしてその後六年間、会社の危機対応に追わせて、俺が君を探す余裕をなくさせたんだ」
貴志の携帯が鳴った。非通知だ。
彼は短く「芦田だ」とだけ言って電話に出た。
スピーカーから聞こえてきた声は、電子的に変えられていたが、紛れもなく女の声だった。
「芦田貴志。彼女からは手を引くべきでしたね」
貴志の手が私の手を見つけ、固く握りしめた。「誰だ?」
「六年前、あなたに警告した者ですよ。もちろん、代理人を通して、ですが」
心臓が止まった。あの女だ。喫茶店の、あの女。
「俺たちを別れさせたかったんだろう」貴志の声は死人のように冷静だった。「目的は達成したはずだ。これ以上、何を望む?」
「私が望んだのは、あなたが川崎清美と結婚すること。それなのに、あなたは全国放送で彼女に恥をかかせた」
電話の向こうから聞こえる笑い声は、氷が砕けるようだった。「芦田さん、あなたはこの件に関して選択権があるとお思いのようですね」
貴志は私に一歩近づき、空いている方の腕で私の腰を庇うように抱き寄せた。「言っておくがな。そのゲームに付き合うのはもう終わりだ」
「そうですか? 竹内さんと会い続けることが、あなたのすべて――会社、一族の名声、そしてあなたの自由さえも――を失うことになっても?」
再び、笑い声が響いた。「よろしいでしょう。七十二時間の猶予を差し上げます。その間に、竹内さんを彼女が潜んでいた場所へ飛行機で送り返すことです。七十二時間後も彼女がN市にいるようであれば、その結果は……厳しいものになりますよ」
私を掴む貴志の手に力がこもった。「どういう結果だ?」
「あなたが大切にしてきたすべてを破壊するような、そういう種類の結果です。お選びなさい、芦田さん。彼女か、それ以外のすべてか」
電話は切れた。
