第420章 誘惑

テーブルに残った面々は顔を見合わせた。藤原雲楽がなぜ急に席を立ったのか、誰にも分からない。

藤原深は淡々とその背中を目で追い、すぐに視線を戻す。感情の起伏はない。

「雲楽はああいう性格だ。放っておけ」

家ではずっと雲楽を甘やかしてきた。周囲も、彼女の我儘を知らないわけがない。そう言われれば、誰もそれ以上は触れなかった。

藤原深が視線を引いた瞬間、川崎玲奈のあたりをかすめ、ほんの半拍だけ止まった。

その微かな間を、玲奈は見逃さない。胸の内で歓声を上げ、気を取り直して藤原深のそばへ寄り、甘い声で言った。

「本当にいいお兄さんですね。雲楽さんのこと、あんなに大事にして」

藤原深は意味...

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