第485章 キスシーン

どう言えばいいのか、林田ククはいま、気持ちが少し複雑だった。

時間短縮のため、菅野監督はキス直前から撮ることにした。

空気は作りやすい。ククは顔を上げた瞬間、すっと役に入れるし、榎本律人に至ってはほとんど最初から芝居が抜けていなかった。

——

葉山史成の指が椎名花梨の顎をそっと撫でる。視線は眉骨から、じわりじわりと唇へ。なぜか瞳にかすかな哀しみが滲んでいて、愛しすぎているみたいに見えた。

彼はゆっくりとドライヤーのスイッチを切る。頭が少しずつ降りてきて、もうキスする――その瞬間。

林田ククは抑えきれずに視線を逸らした。横でライトを当てながら、こちらをじっと睨みつける藤原深が目に入...

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