第503章 行かないで

林田ククは恐怖で、彼が何を言っているのかまるで耳に入らなかった。脅されていると勘違いし、両足をめちゃくちゃに蹴り上げる。力はないのに回数だけは多く、藤原深の肋骨がじんじん痛んだ。

藤原深は手を離さない。ぎゅっと抱きしめたまま、何度も何度も繰り返す。

「ククちゃん、俺だ。藤原深だ。もう大丈夫、もう大丈夫」

ククは嗚咽し、拒むように両手で押し返した。

「放して、放して!」

もみ合ううち、露わになっている藤原深の首筋が目に入る。ククは顔を上げ、容赦なく噛みついた。鉄さびの匂いがふわりと広がる。

藤原深は歯を食いしばり、声ひとつ漏らさず耐えた。むしろいっそう優しく、ククの背を撫でる。

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