第114章

千鳥凪紗は魂が抜けたように、古びた住宅街の道を歩いていた。足元がおぼつかない彼女を、柚木文乃が心配そうに支えている。

その時、バッグの中で携帯が鳴り出した。藤野拓介からの着信だとわかった瞬間、彼女の心臓が鷲掴みにされたように縮み上がった。

千鳥凪紗は数秒ためらったが、震える指で通話ボタンを押した。

「どこにいる」

受話器の向こうから聞こえてきた男の声には、一晩中抑え込んでいた焦燥と怒りが滲んでいた。

千鳥凪紗はとっさに嘘をついた。その声には、自分でも気づかないほどの疲労が混じっている。

「友達の家に……。昨日は携帯の充電が切れちゃって、早く寝たから電話に気づかなくて」

電話の向...

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