第144章

千鳥凪紗はふわりと微笑むと、自然な仕草で藤野拓介のそばへ歩み寄った。そして遠野秋良から役目を引き継ぐようにして、車椅子のハンドルを握る。

「蓮司! やっと戻ってきてくれたのね!」

真っ先に反応したのは桜山久美だった。彼女は瞬時に顔に張り付いていた悔しさや怨嗟を消し去り、今にも泣き出しそうな健気な表情を作って駆け寄ってくる。

「すごく心配したのよ。体調はどう? どこか辛いところはない?」

そう言いながら藤野拓介の手に触れようとするが、彼は車椅子を巧みに操作し、その手をさらりと躱した。

桜山久美の手が空中で行き場を失い、固まる。顔に一瞬気まずさが走ったものの、彼女はすぐに体勢を立て直し...

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