第150章

電話の向こうの藤野拓介は、余計なことは一切訊かなかった。その低い声だけが、今の彼女にとって唯一の精神安定剤だった。

「場所は」

「あさひ幼稚園です」

「遠野秋良を向かわせる」

肯定の返事を聞くや否や、千鳥凪紗はアクセルを床まで踏み込んだ。車は解き放たれた矢のように急発進し、幼稚園の方角へと疾走する。

車窓を流れる街並みはすべて光の残像と化し、彼女の脳裏にはただ一つの念だけが焼きついていた。

辰樹、お願いだから無事でいて!

通話を切った後、携帯を握りしめる指の関節が、力の入れすぎでパキリと乾いた音を立てた。

巨大な不安が目に見えぬ手となって心臓を鷲掴みにし、息の根を止めんばかり...

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