第172章

羽菜が指先で刻んだメッセージは、簡潔かつ明瞭だった。『私たち、安全』。

誘拐という絶体絶命の窮地にありながら、この子は狼狽えるどころか、冷静に外部との通信手段を見つけ出し、さらに彼ならそれを解読できると正確に判断したのだ。

藤野拓介の張り詰めていた心が、その瞬間にストンと落ち着きを取り戻す。そして代わって胸の奥底から湧き上がってきたのは、全てを焼き尽くすような滔々たる怒りと、骨の髄まで凍てつくような殺意だった。

彼はゆっくりと手を上げ、カメラのレンズに向かって、極めて微かに掌を下へ押し下げる仕草をした。

『待っていろ。必ず助ける』

その合図を送った瞬間、彼の全身から放たれていた心臓...

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