第175章

彼はさらに腕に力を込め、彼女の頸窩に顔を埋めると、髪の間から漂う清らかな香りを貪るように嗅いだ。

「凪紗、まだ俺に未練があるのは分かってるんだ。やり直そう、な? 藤野蓮司なんて明日をも知れぬ病気持ちだ、君を幸せになんてできない。俺だけが……」

「離して!」

千鳥凪紗の声が鋭く跳ね上がる。不快感と焦燥が露わだった。

「離さない! 死んでも離すもんか!」

「そう」

千鳥凪紗が発したのは、たった一文字だった。

次の瞬間、彼女の手から瀟洒なハンドバッグが滑り落ち、静寂に包まれた小径にドサリと重く鈍い音を立てた。

間髪入れず、鋭い絶叫が夜気を切り裂く。

「ああっ!」

その悲鳴があま...

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