第178章

千鳥凪紗のその一言は、まるで氷水を浴びせられたかのように桜山久美の怒りを鎮火させ、同時に周囲で成り行きを見守っていた野次馬たちの目を覚まさせた。

そうだ、彼女は妊婦ではなかったか?

あれほど派手に転倒したのだ。普通の妊婦であれば、恐怖で気も動転し、真っ先に腹の子を案じるのが道理だろう。それなのに、桜山久美は終始誰彼構わず掴みかかり、罵声を浴びせている。その中気たっぷりな怒号のどこに、安静を要する妊婦の姿があるというのか。

目敏い貴婦人たちが数名、疑惑の眼差しを向けながらヒソヒソと囁き交わし始めた。

「栗原小里様がいらしたわ!」

誰かの声を合図に、人垣が自然と割れて道ができる。

栗...

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