第36章

千鳥凪紗は呆然と藤野拓介を見つめていた。彼の瞳の奥で渦巻く怒りと、それ以上に深い心痛の色を見て、指先が氷のように冷え切っていく。

彼女は唇を動かし、電話を切ってと伝えようとしたが、声にならなかった。

電話の向こうでは、千鳥司夫が相変わらず死に急ぐような罵詈雑言を吐き散らしている。

「おい、聞いてる? いいか千鳥凪紗、今すぐ戻ってきて藤野蓮司に説明しやがれ! さもないと……」

「さもなくば、どうするつもりだ?」

突如として響いた冷徹な声は、隠そうともしない殺気を帯びており、千鳥司夫の怒声を鋭利な刃物のように断ち切った。

千鳥司夫は聞き覚えのない男の声に言葉を詰まらせ、二秒ほど呆けて...

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