第59章

警備員の手が伸びようとしたその時、千鳥凪紗は退くどころか、あえて一歩踏み出した。その冷ややかな視線が周囲を射抜く。彼女がゆっくりと掲げたスマートフォンの画面には、はっきりと『110』の数字が表示されていた。

「不当解雇に対する経済補償、私のデザイン画、それから正当な賠償金。これらが一つでも欠ければ、今日この通話ボタンを押します」

彼女の言葉は、一音一音明瞭に響いた。

「その時ここに来るのは、労働仲裁の人間だけじゃ済みませんよ。A市のメディアも、『有名企業による不当解雇、および暴力による脅迫、私有財産の強奪』というニュースには、さぞ興味を持つでしょうね」

警備員たちの動きがピタリと止ま...

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