第60章

その場にいた全員の視線が、一斉に入り口へと注がれた。

逆光の中、藤野拓介が歩み寄ってくる。体に吸いつくような黒のスーツが、彼の恵まれた体躯を際立たせていた。その類稀なる美貌には何の感情も浮かんでいないが、全身からは直視することさえ躊躇われるほどの強烈なオーラが放たれている。

彼は呆気にとられて立ち尽くす人々を悠然と通り抜け、携帯電話を奪い取ろうと手を伸ばしていた警備員の前で足を止めた。

警備員の手は空中で凍りつき、藤野拓介の底知れぬ漆黒の瞳と目が合うと、反射的に縮こまった。

藤野拓介は警備員には目もくれず、背後に守られている千鳥凪紗に視線を落とす。彼女の強張った頬と微かに赤らんだ目尻...

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