第61章

千鳥凪紗の問いかけに、藤野拓介は湯呑みを握る指をわずかに止めた。彼はちらりと彼女を見上げたが、何も言わなかった。

栗原小里は何事もなかったかのように、取り箸で料理を凪紗の皿に取り分けながら、あっけらかんと言った。

「何でもないわよ。ただ山口会長に、商売は誠実に、人としてはルールを守りなさいって注意しただけ。あの人、もういい歳だから忘れっぽくなったんじゃないかと思って」

その口調は雲のように軽やかだったが、凪紗の心臓はドキンと跳ねた。

山口正博のような男の声を裏返らせるほど震え上がらせたのだ。ただの「注意」であるはずがない。

彼女は無意識に拓介を見た。彼なら本当のことを教えてくれると...

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