第65章

捜索の気配が遠ざかるのを確認し、藤野蓮司はようやく安堵の息を吐くと、彼女の口を塞いでいた手を離した。

千鳥凪紗は即座に芝生から起き上がり、泥や草屑で服が汚れるのも構わず携帯を取り出すと、119番に通報しようとした。

「何をする気だ?」藤野蓮司が彼女の手首を掴んだ。

凪紗は声を潜め、切迫した様子で言った。

「怪我をしてるじゃない! すぐに病院に行かないと!」

彼の黒いパーカーの脇腹あたりが、血でぐっしょりと濡れているのが見えた。月明かりの下、それはどす黒い光沢を放っている。これほどの深手だ、病院に行かなければ命に関わる。

「駄目だ」

藤野蓮司は彼女の携帯を奪い取ると、自分のポケッ...

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