第66章

電話が繋がると、千鳥凪紗は手短に状況と現在地を伝えた。相手は三十分以内に到着すると請け合う。

通話を終え、携帯をポケットにしまおうとしたその時、不意に藤野蓮司が口を開いた。

「千鳥さん」

「ん?」

「婚約の件だが……」

藤野蓮司は木の幹に背を預けていた。仮面越しの声は、どこか弱々しい。

「履行するつもりだ」

千鳥凪紗は呆気にとられ、すぐに眉をひそめた。

「どういう意味?」

「言葉通りの意味だ」

藤野蓮司は小首を傾げて彼女を見た。

「藤野家と千鳥家の婚約、俺が最後まで責任を持つ」

千鳥凪紗の胸に、むっとした怒りが込み上げた。

「藤野蓮司、助けてあげたのに恩を仇で返すつ...

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