第85章

見慣れたその顔を認めた瞬間、千鳥凪紗は石のように固まった。

藤野拓介?

どうして彼がここに!?

上半身はシンプルな白いTシャツ一枚。髪はまだ生乾きで、シャワーを浴びたばかりなのだろう、眉目には気怠げな色気が漂っている。

彼、お見合いに行くんじゃなかったの? なんでここにいるわけ?

視線が絡み合い、空気は一瞬にして凍りついた。

千鳥凪紗の顔には驚愕と動揺がありありと浮かんでいるが、対する藤野拓介の瞳には一瞬の驚きが走っただけで、すぐにいつもの平静さが戻ってきた。まるで、彼女がここにいるのが当然であるかのように。

「おや、拓介さん、もう上がったのかい?」

橋田が生姜湯を盆に載せて...

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