第87章

彼はハンドルを死に物狂いで握り締め、制御不能の恐怖の中でわずかでも主導権を取り戻そうとしていた。その一方で、もう片方の手は迷うことなく伸びてくる。彼は千鳥凪紗の頭を力強く自分の胸に押し付け、全身で覆いかぶさるようにして抱き込んだ。

「俺につかまれ。二人とも助かる」

その声には拒絶を許さない力強さがあり、強心剤のように彼女の底知れぬ恐怖を貫いた。

千鳥凪紗の鼻先が、彼の厚い胸板にぶつかる。白いTシャツから漂う純粋なコットンの匂いと、雨の湿り気。そして、胸の奥で力強く刻まれる鼓動さえも、鮮明に感じ取れた。

ドォォォォォン――!

鼓膜を破るような轟音と共に、世界は死のような静寂に沈んだ。...

ログインして続きを読む