第94章

遠野冬生の決然とした背中が遠ざかっていく。それを見送ることしかできなかった松下佑奈は、魂が抜けたように壁へと崩れ落ちた。底知れぬ恐怖が、冷たい指先で彼女の心臓を鷲掴みにしていた。

一方、オフィスに戻った松下佑奈は、先ほどの衝撃が冷めやらぬまま、目の前に広がる光景に言葉を失った。

フロア全体が、まるで花畑に沈んだかのようだった。最高級の産地から取り寄せたであろう真紅のバラが、通路も空きスペースも埋め尽くしている。その一房一房が精巧にラッピングされ、妖艶なほどに咲き誇り、濃厚な香りが空気の隅々まで支配していた。

同僚たちが集まり、羨望の混じった声を上げている。

「うわっ、凪紗、これ凄いよ...

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