第3章

翌朝、私は薬局へ向かった。荒生先生にもらった応急処置の薬では足りない。長期的な解決策が必要だった。

「申し訳ありません、水原さん」薬剤師の同情的な眼差しが、やけにゆっくりと私を捉える。「保険が失効しています。――公民館の方針が変わった、そうでして」

公民館、方針。その単語が、意味を結ばないまま頭の中を浮遊した。彼の唇がさらに動き、音の羅列を紡ぎ出す。

「……ですので保険適用外となり、この処方箋ですと、五万六千八百円になります」

まるで知らない外国語のように、その数字は私の耳を滑り落ちていった。

処方箋を握りしめたまま、私は立ち尽くした。眩暈がした。『五万六千八百円?』今の私の給料では、半月分近くに相当する金額だ。どうすべきか考えながら、無意識に指が財布の端を弄っていた。もう一週間、我慢できるだろうか。それとも、半分の量で凌ぐ?

踵を返して立ち去ろうとした、その時。背後から声がした。

「あら、水原のお姫様は、薬も買えなくなったのか?」

振り返ると、和也が薬局の入り口に寄りかかっていた。スーツのジャケットを腕にかけ、シャツの袖をたくし上げている。そこから覗く筋骨隆々とした前腕と、一目で高級品とわかる腕時計。陽の光が彼の端正な顔立ちを照らし出し、私の心臓が不覚にも跳ねた。

「もう望みは叶ったでしょ、和也」私は顎を上げ、震える声を必死で抑えながら言った。「私にはもう何もない。あなたの勝ちよ。満足した?」

彼は冷たく笑い、嘲りを満面に浮かべた目で私に歩み寄ってきた。「いや、絵里」彼の深い瞳が、私の視線を捕らえた。「満足なんて、程遠い。お前が俺に与えた苦痛に比べれば、こんなもの、何でもない!」

彼の言葉はナイフのように心臓に突き刺さり、呼吸さえ困難になった。本当のことを言いたかった。でも……。

「ところで」彼はぐっと身を寄せ、唇が私の耳たぶに触れんばかりの距離で囁いた。「土曜の夜、フェアモントホテルで俺の主催する慈善パーティーがある。全社員、参加必須だ」彼は一旦言葉を切り、残酷な笑みを唇に浮かべた。「悠斗も来るよ、お前たちの再会が楽しみだよ」

私の顔から、さっと血の気が引いた。薬の袋が手から滑り落ちる。『悠斗が来る? いや、無理、そんなの……』

和也は屈んでその袋を拾い上げると、手渡す際にわざと、ゆっくりと私の手のひらを指でなぞった。火傷でもしたかのように、私は反射的に手を引いた。それなのに、体には覚えのある電流が走るのを止められなかった。

「遅れるなよ」彼は一歩下がり、冷たい表情に戻った。「お前のキャリアに……重大な影響を及ぼすことになる」

土曜の夜、私はクローゼットの前に立ち、鏡に映る自分を見つめていた。目の下には濃い隈、頬はこけている。『これが、本当に私?』

私が着ているのは、唯一人前に出られるドレス、五年前に買った黒のカクテルドレスだ。今ではウエストがぶかぶかで、胸元は開きすぎている。唯一ぴったりなのは袖だけで、好都合にも手首の傷跡を隠してくれた。安全ピンで胸元を留め、借り物の口紅を引く。青白い顔色を少しでも隠したかった。

コーヒーテーブルの上には、荒生先生にもらった応急処置の薬が置いてある。数えると、六錠。次の処方箋をもらうまで、到底もたない。半分の量で凌ぐしかない。症状が悪化するリスクを冒して。半錠を、水なしで飲み込んだ。

フェアモントホテルのボールルームは壮麗で、クリスタルのシャンデリアが大理石の床を煌々と照らしていた。ウェイターたちがシャンパンとオードブルを載せた盆を手に巡っている。空気は高価な香水と酒、そして権力の匂いで満ちていた。

入り口に立った私は、完全に場違いだと感じていた。

グラスの触れ合う音と、うわべだけの笑い声が満ちるホール。私は壁際の影に隠れるようにして、人々の視線が集まる場所をじっと見ていた。

星野和也。

まるで彼のためだけにスポットライトが当たっているかのように、その周りだけが明るい。仕立ての良い黒のタキシードは彼の広い肩によく似合い、きれいな蝶ネクタイが、自信に満ちた首元を飾っている。

地位のありそうな男たちが、彼のジョークに大げさに頷き、グラスを掲げる。彼はその輪の中心で、口の端を少し上げて微笑むだけで、誰もが彼に引きつけられるのだ。

『相変わらず、癪に障るほど魅力的だ』

隅の方へ紛れ込もうとしたが、行く手を阻まれた。

「水原様」冷たい声が告げた。「お席はメインテーブルにご用意しております」

振り返ると、崇之が感情のない顔で私を見つめていた。「メインテーブル?」

「ボスのご命令です」彼はそっけなく言うと、私の背中に手を置き、人混みをかき分けて案内した。

指定された席の隣に悠斗が座っているのを見た途端、私は思わず足を止めた。氷のような恐怖が、瞬時に心臓を鷲掴みにする。

「よう、絵里」その声に振り返るより早く、和也の手が私の椅子の背に置かれた。有無を言わせぬ力で引かれた椅子に、私の体は逆らえない。「昔の自分の女が、今や他人のものになったってことを、あいつに見せつけてやれ」

耳元で囁かれた言葉に、全身の血が逆流するような感覚がした。『もの……? 私は誰のものでも――』言いかけた言葉は、彼の楽しそうな吐息にかき消された。彼は私の抵抗を、まるで子猫の威嚇のようにしか思っていないのだ。

私は唇を噛みしめ、震える足でその席に着くしかなかった。すぐに、背中を焼くような視線が突き刺さる。悠斗だ。その目は、まるで獲物を締め上げる毒蛇のように、私の体を絡め取り、逃げ道を塞いでいく。

ディナーが始まると、和也は立ち上がり、シャンパングラスをきらめかせながらスピーチを始めた。「星野財団チャリティーガラへようこそ。今夜はB市南区の子供たちの健康プログラムのための資金を集めるだけでなく、我々一家がそのルーツへと回帰したことを祝う場でもあります……」

彼の視線が、やがて私に注がれた。「特別にゲストを紹介したい、水原絵里。かつては水原家のお姫様だったが、今は……私の特別アシスタントだ」

丁寧な拍手に、囁き声が混じる。水原家の歴史を知らぬ者は、ここにはいなかった。

「運命が、我々を再会させたというわけだな」和也はグラスを掲げ、悠斗と私の間を視線が行き来した。

悠斗もグラスを上げ、吐き気を催すような笑みを唇に浮かべた。彼はほとんど変わっていなかった――相変わらずの薄い唇をした細い顔、小さく狡猾な目、そして顎の目立つ傷跡。「まったくだ。絵里にまた会えるとは……思いがけない喜びだよ。あの頃の日々は、忘れがたい」

私はグラスを強く握りしめ、指の関節が白くなるのを感じた。胃がむかつく。和也の目が私を観察し、どんな反応でも見逃すまいと探っている。『試しているんだ』体の神経という神経が逃げろと叫んでいるのに、私は平静を保とうと必死にもがいた。

パーティーも半ばに差しかかった頃、私は疲れ果てていた。和也と悠斗の間を立ち回るのは、まるでナイフの刃の上で踊っているようで、一秒一秒が耐え難い苦痛だった。

化粧室へ行こうと席を立つと、悠斗が後をつけてきた。ボールルームの隅にある薄暗い廊下で、彼は突如私の前に現れた。

「絵里」彼は優しくそう言うと、一歩踏み出した。その目には邪悪な光が宿っている。「ずいぶん……やつれたな。苦労しているんだろう?」

私は後ずさり、壁にぶつかった。追い詰められたと感じる。「近寄らないで、このクズ」

彼はさらに距離を詰め、そのコロンの匂いが私を包み込み、胃がひっくり返りそうになった。

「俺たちの小さな秘密、ずっと守ってくれていたんだな? 和也は知っているのか? あの夜、何があったか」

呼吸が苦しくなり始め、心臓が痛いほど速く脈打つ。解離症状が始まった――パニック発作へと滑り落ちていく。『ここで、今だけはダメ』

「このクソ野郎、私に近寄るな!」私は声を絞り出した。声は震えていたが、憎しみに満ちていた。「一歩でも近づいたら、殺してやる!」

彼は一瞬ためらったが、すぐに得意げな表情を取り戻した。「相変わらず気が強いな、絵里。そういうところ、昔から好きだったよ」彼の指が私の腕をなぞり、私は激しくそれを振り払った。

悠斗をどうにか回り込み、ほとんど走るようにして逃げた。だが、角を曲がった途端、和也の固い胸にぶつかった。

「どこへ行くつもりだ、絵里?」彼は眉をひそめ、腕で私の行く手を遮った。「ガラはまだ終わっていない」

「気分が悪いんです。帰らせてください」私は震えを抑えようと必死に言った。

「そうか? それとも、悠斗との密会を邪魔されてご立腹かな?」彼は危険な光を目に宿し、嘲るように言った。

私は傷ついた心で彼を見上げた。「あなたには何もわからない!」

「なら教えてくれ」彼は私の手首を掴んだ。あまりに強い力で、振りほどくことはできなかった。

「離しせ......」私が言い終わる前に、彼は私を隅のスイートルームに引きずり込み、ドアを乱暴に閉めた。

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