第9章
顔を上げると、荒生が絵里の縄を解いているのが見えた。彼女は床にうずくまり、全身を震わせ、その目は虚ろだった。
俺は意識が朦朧としている悠斗をその場に残し、腹部に焼けるような痛みを感じながらも、絵里の方へ這って行った。
「絵里」と、俺はかすれた声で優しく呼びかけた。「絵里、俺だ、和也。もう大丈夫だ」
彼女には聞こえていないようだった。自分の世界に閉じこもっている。荒生が彼女のそばに膝をつき、優しく話しかけて、現実へと引き戻そうとしていた。
突然後ろで物音がした。振り返ると、悠斗がふらつきながらも立ち上がり、どこからか手に入れた銃を絵里に向けているのが見えた。
考える暇はなか...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章


縮小

拡大