第3章

廊下に立っていたその女性は、金と権力をこれ見よがしに誇示するような、威圧的な気品をまとっていた。完璧に整えられた銀髪、私の大学の一学期分の学費よりも高そうな服、そしてその微笑みは、冬の朝のように暖かみがなかった。

「葦原さん、でいらっしゃいますね? わたくしは霧島真珠と申します。義理の息子、煌のことはご存知かと思いますが」

胃がひゅっと縮こまる思いがした。煌の継母が私の部屋のドアの前に立っている。心底ここにはいたくない、という顔をしていた。

「少しお話がしたいのですが」彼女はそう言うと、勝手に部屋に上がり込んできた。

彼女は時候の挨拶など時間の無駄だとばかりに、ものの五分もしないうちに、私の小さなキッチンテーブルの上に、まるで裁判で証拠を並べるかのように書類を広げた。

「二十年前、あなたの家族がわたくしの家族を破滅させました」氷のように冷たい声で彼女は言った。「そして今度は……何ですって? 煌を誑かそうとでも?」

書類には、医療提携契約書、財務記録、私には到底理解できないような法律文書が並んでいた。しかし、それらが物語る筋書きは十分に明白だった。二十年前、私の父と煌の父は、何らかの医療事業におけるビジネスパートナーだった。真珠によれば、父は独自の技術研究を盗み、それを利用して自分の医院を開業し、嵐峰家を経済的に破綻させたのだという。

「ありえない」致命的な書類の上にある、父の署名らしきものを見つめながら私は言った。「父がそんなこと.......」

「お父さんは泥棒です」真珠は簡潔に言った。「そして今、その娘が父親の跡を追い、家柄目当てでうちの煌を利用しようとしている」

「昨夜のことは違います」

「そうですか?」彼女は手慣れた様子で書類をまとめた。「煌は……あなたの一家の過去を知りません。でも、いずれ知ることになる。あなたが正しい選択をして、身を引かない限りはね」

言葉にはされなかったが、脅しであることは明白だった。煌のそばにいれば、一族の確執が公になったときに彼のキャリアが破綻するのを見届けることになる。あるいは、私が去れば、彼は彼にふさわしい未来を築くことができる。

「考える時間は差し上げます」玄関で真珠は言った。「ですが、あまり長くはありませんことよ」

その日の午後、煌から電話がかかってきたとき、ディナーと、ちゃんとしたデートの計画を明るく話す彼の声に、私は耐えられなかった。何も変わっていないふりなんてできなかった。自分のわがままのために、彼の夢を壊すリスクを冒すことなんてできなかった。

「昨夜のことは、間違いだったと思う」声に出した言葉が、喉を切り裂くようだった。

あまりに長い沈黙に、電話を切られたのかと思った。

「風花、もし俺が何か言ったり、したりしたせいなら.......」

「あなたのせいじゃない。私の問題なの。私にはまだ、こういうの、無理だから」

また嘘をついた。覚悟はできていた。もう彼に惹かれ始めていたのに。けれど、世界が自分に牙を剥くとき、覚悟なんて何の役にも立たないことがある。

「わかった」ようやく彼が口にした声には、隠しきれない傷心の色が滲んでいた。「それが君の望みなら」

「そう」

人生最大の嘘だった。

六週間後、私はあのパーティーの準備をしたのと同じバスルームで吐いていた。最初はストレスだと思った。就職活動はさらに悪化し、卒業は刻一刻と迫っていた。

でも、生理が来ないことに気づいたとき、悟ってしまった。

妊娠検査薬は、体がすでに告げていた事実を裏付けた。二本のピンクの線。生涯でただ一人愛した男性から離れて十週間、私は彼の子を身ごもっていた。そして、彼にだけは決して知られてはならない。

今までは。

煌がこれ見よがしに手配をするだろうことは、予想しておくべきだった。

手術から目覚めたとき、私は普通の病室にはいなかった。そこは白桜市のダウンタウンを一望できる、高級ホテルのスイートルームのような部屋で、一泊の料金は診療所での私の月収より高そうだった。

「ここは……どこですか?」点滴をチェックしている看護師に尋ねた。

「白桜産科センターです」看護師は明るい笑顔で言った。「プラチナ・リカバリスイートですよ。嵐峰先生がすべて手配なさいました」

やっぱり。煌は、私が普通の人間のように普通の病室で回復するのを許せなかったのだ。大理石のカウンタートップにエジプト綿のシーツ。まるで私たちの世界の隔たりを絶えず見せつけるかのように、彼は私をこんな場所に置きたがったのだ。

私の赤ちゃんは、早産児には標準的な処置だという医師の説明で、新生児集中治療室で経過観察中だった。検査とモニタリングのために連れて行かれる前に、ほんの数分しか抱きしめることができなかった。

一人きりになると、危険な考えばかりが頭をよぎる。

目を閉じるたびに、あの緑色の瞳が浮かんでくる。息子の瞳。煌の瞳。似ていることは否定しようもなく、この子が彼以外の誰かの子であるなどと偽ることはできなかった。

でも、煌に真実を告げることはできない。私たちの家族にこんな過去がある以上は。私と一緒にいることが、彼が築き上げてきたすべてを台無しにしかねないのだから。

不安の渦中にいた私を、控えめなノックの音が引き戻した。

「入ってもいいかな」煌の声は、慎重で、どこか他人行儀だった。

「あなたの病院でしょ」思った以上に、棘のある言い方になってしまった。

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