第二十八章

オフィスで、ヒルダはパソコンの電源を入れ、時間を確認した。

「もうこんな時間。現場の作業員たちは遅刻を嫌うのよね。この件は見送ることにしようかしら。早く帰って、推しの顔を拝むほうがずっと素敵だわ!」

まだ勤務時間中ということもあり、フロアにはほとんど人がいなかった。廊下には数人の姿があるだけだ。

オフィスを出た彼女は、バッグを持って化粧室へと向かった。帰宅する前に用を済ませておきたかったのだ。

自分の執務室を出ていたため、彼女は部下用の洗面所を使うことにした。女子トイレの中には誰もおらず、照明は故障したまま放置されているのか、絶えずチカチカと点滅を繰り返している。

足を踏み入れた瞬間、人の...

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