チャプター 612

ヒルダはあまりの衝撃に、口に含んでいた牛乳を噴き出してしまった。「彼を知っているの?」

ネイサンはため息をつき、声を潜めた。「ああ。昔、俺がまだ陸軍の教官だった頃、あいつは教え子の一人だったんだ。ターディ大学から訓練に来ていてな。その後、デザインの勉強をするために留学したと聞いていたんだが、まさかこんな結末になるとは……」

彼はそれ以上詳しく話すに忍びなかった。何しろ、その人物は大学時代、才能あふれる学生だったのだ。運命がこれほど残酷な仕打ちをするとは、誰が予想できただろうか。

「両親が亡くなった後、親戚連中があいつと妹の世間知らずにつけ込んで、家を二束三文で騙し取ったんだ。家も財産も...

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