チャプター 804

リナックスはもう一杯、ワインをグラスに注いだ。そして頭を仰け反らせると、グラスの中身を豪快に飲み干した。空になったグラスを置き、楽しげに談笑しているソニアとヒルダの方へ視線をやる。

トーマスは、先ほどリナックスの瞳をよぎった奇妙な光を見逃さなかった。

(彼は……ヒルダ様を見ているのか?)

『祝福されぬ恋ならば、その想いは胸の奥深くに秘めておくべきだ……』

それは、リナックスの心に深く埋められた秘密だった。

トーマスは驚愕し、背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。とんでもないことに気づいてしまったようだ。

(これは一大事だ。すぐにネイサン様に知らせなければ。放置しておけば、取り返しのつかな...

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