第3章

泉美

翌朝早く、私は自分が深刻な窮地に陥っていることを悟った。

急いで自分のパン屋に駆けつけると、目の前の光景に足がすくみそうになった。ガラスのドアは粉々に砕かれ、ディスプレイの窓には脅迫めいた貼り紙がべたべたと貼られていた。

【食品偽装】

【店主、借金踏み倒し】

【悪徳業者】

一枚一枚の貼り紙が、私の心臓を激しく脈打たせる。

「泉美ちゃん?」近所に住む年配の花美さんが、心配そうに近づいてきた。「昨日の夜遅く、チンピラみたいな連中がここで騒いでたのよ。あんたの店でパンを買おうとする奴がいたら、車をぶっ壊してやるって脅してたわ」

私の手は震えていた。これは間違いなく、慎吾の仕返しだ。

案の定、私が後片付けを終える前に、数人の刺青を入れたチンピラが店の入り口を塞いだ。

「ここの店、賞味期限切れの材料を使ってるって問題になってるらしいぜ」と、一人がわざと通行人に聞こえるような大声で言った。

「ああ、俺のダチもここのパン食って腹壊したってよ」

「食中毒になりたくなきゃ、みんな近寄らない方がいい」

私は彼らに抗議しようと飛び出したが、彼らはニヤニヤと笑うだけで、立ち去る気配はまるでない。

一週間もの間、私のパン屋は閑古鳥が鳴いていた。常連客はこの通りを完全に避けるか、心配そうな視線を送りながら足早に通り過ぎていくだけだった。


その日の夜、アパートの部屋で、私は請求書の山に囲まれながらソファに崩れ落ちた。家賃、ローン、仕入れ先への支払い書……そのどれもが支払いを求めている。

勇弥にもらったブラックカードを取り出し、手の中で裏返してみる。三十万円――私の問題をすべて解決できるだけの額だ。

でも、私にはできなかった。

『でも、どうすればいいの?このままじゃ、すぐに破産してしまう』

私はスマホを開き、近所の求人情報を検索し始めた。桜都のレストラン、喫茶店、小売店……ウェイトレスの経験はあるから、何か見つかるはずだ。

「ベラ・ノッテ」というイタリアンレストランの募集が目に留まった。高級店で、給料も悪くない。場所は西桜町だ。

真っ当な仕事で自立するという考えが、私の希望を再び灯してくれた。


翌日の正午、私は西桜町で最も洗練されたイタリアンレストラン「ベラ・ノッテ」の前に立ち、深呼吸をした。

想像していたよりも、ずっと高級な店だった。

「ご予約でしょうか?」黒いスーツを着た男性――おそらくマネージャーだろう――が近づいてきた。

「あ、あの……ウェイトレスの募集を見て……」私は緊張しながら言った。「求人広告を拝見しました。レストランでの経験はあります」

男性は私を上から下まで値踏みするように見て、考えているようだった。

ちょうどその時、二階の個室のドアが不意に開いた。

私の心臓が止まった。

仕立ての良い紺色のスーツを着た勇弥が、ゆっくりと階段を下りてくるところだった。視線が交錯した瞬間、空気が凍りついたように感じられた。

『うそ! なんで彼がここに!?』

彼の表情が一瞬揺らいだが、すぐに見知らぬ他人に対するような、涼しい落ち着きを取り戻した。

「彼女が求職者か?」彼の声は深く、感情がこもっておらず、あの夜の優しさのかけらもなかった。

「はい、ボス」マネージャーは恭しく答えた。

『ボス? ここ、彼の店なの? なんて運が悪いの……』

勇弥が私に近づいてくる。その鋭い瞳が、私の魂を射抜くようだった。彼の視線に、複雑な感情が一瞬きらめくのを捉えた。

「君に務まるかな?」彼の口調は、あくまでも仕事上のものだった。「うちの客層は……特別だからな」

内心の動揺を抑え、平静を装うのに必死だった。「困難を恐れません」

彼は数秒間、何かを考えるように私を見つめていた。

「いいだろう。明日から始めろ」彼は背を向け、去り際に立ち止まった。「覚えておけ、ここには多くのルールがある」


三日後のディナータイム、惨事は起こった。

私が客の対応をしていると、入り口から甲高い笑い声が聞こえてきた。

慎吾!

彼はあの夜の金髪女の肩を抱いて入ってくると、わざとダイニングルームの中央にある一番目立つテーブルを選んだ。

「見ろよ、俺の元カノがうちのファミリーのために働いてるぜ」慎吾の声は、レストラン中に聞こえるように意図的に大きかった。「笑えるよな――パン屋からウェイトレスに成り下がりか?」

頭に血が上るのを感じた。レストラン全体が静まり返り、すべての視線が私に集中する。

「慎吾さん、お静かにお食事をお願いします」私はかろうじてプロ意識を保った。

「静かに?」彼は立ち上がり、意地の悪い笑みを浮かべた。「うちのファミリーのレストランで話すのに、お前の許可がいるのか?」

そして彼は他の客の方を向き、さらに声を張り上げた。「みんな知ってたか?この女は俺を裏切って、俺の親父と寝たんだ!」

隣で金髪女がクスクスと笑い、他の客たちはひそひそと囁き始めた。侮蔑、衝撃、困惑の視線が四方八方から私に突き刺さる。

もうだめだ、と心が折れそうになったその時、階段を降りてくる足音がした。

すべての視線が一斉にそちらへ向く。

勇弥がゆっくりと降りてきた。彼の表情は恐ろしいほどに暗く、レストラン全体の温度を数度下げたかのようだった。

その一歩一歩が、そこにいる全員の良心の上に踏み下ろされるかのようだ。

彼が慎吾の前にたどり着いた時、誰もが息を呑んだ。

パァン!

乾いた平手打ちの音が、レストラン中に響き渡った。

慎吾はよろめき、その顔にはみるみるうちに真っ赤な手形が浮かび上がった。

「俺のレストランで、俺の従業員を侮辱する者は誰であろうと許さん」勇弥の声は低く、危険な響きを帯びていた。

そして、全員に向き直ると、彼の声はレストランの隅々まではっきりと届いた。「お食事の邪魔をして申し訳ない――少々、身内の問題を片付けていただけだ。どうぞ、お続けください」

死のような静寂。

慎吾は顔を押さえ、その目には恐怖と怒りがきらめいていたが、結局何も言わず、金髪女を引き連れてこそこそと立ち去った。


客たちが帰った後、私は一人でバックキッチンで皿を片付けていた。手はまだ微かに震えている。

「泉美さん、うちのボスが誰だか知ってる?」マネージャーの健一さんが静かに近づき、声を潜めて言った。「黒崎勇弥。桜都で最も危険な男だよ」

私の手がびくりと動き、皿を落としそうになった。「どういう意味ですか?」

「知らないのか?」健一さんは驚いた顔をした。「黒崎組は……この街で最も力を持つ……そういう組織なんです」

彼ははっきりとは言わなかったが、私には理解できた。

マフィア。

足の力が抜けた。私は知らず知らずのうちに、マフィアのボスのレストランに応募してしまったというのか?しかも私は……。

「怖くなったか?」

聞き覚えのある低い声が背後からした。振り返ると、勇弥が戸口に寄りかかり、鋭い視線を向けていた。健一さんはすぐに挨拶をしてそそくさと立ち去り、狭い空間に私たち二人だけが残された。

「私は……」

「怖いなら、今からでも辞めていい」彼はゆっくりと近づいてくる。その一歩一歩が、私の心臓の鼓動と重なるようだった。「だが覚えておけ、一度ここに残ると決めたら……」

彼は私の目の前で立ち止まり、手を伸ばして私の頬を優しく撫でた。その仕草は耐え難いほど優しく、それでいて信じられないほど危険だった。

「もう後戻りはできない」

彼の深い瞳を見つめ、指先の温かさを感じながら、私の心臓は張り裂けそうだった。

怖がるべきだ、背を向けて逃げるべきだとわかっていた。

しかし、私の身体は理性を裏切った。

「怖くありません」自分の声が聞こえた。

彼の目に、満足そうな光が一瞬きらめいた。

「いいだろう」彼は私の耳元で囁いた。その熱い息が私を震わせる。「ならば、これからのことを覚悟しておけ」

そう言うと、彼は背を向けて去っていった。雷鳴のように心臓を打ち鳴らしながら、私はそこに立ち尽くしていた。

私の人生は、永遠に変わってしまったのだとわかった。

そして奇妙なことに、私はその変化を心待ちにしている自分に気づいた。

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