第4章

勇弥

深夜の薄暗いオフィス。葉巻の煙が影の中を渦巻いていた。俺は革張りの椅子に深く身を沈め、手にしたウィスキーに口をつけた。今夜すでに三杯目だ。

『ただの平凡な娘だ』

この三十六年間、数えきれないほど自分にそう言い聞かせてきた。美しい女など掃いて捨てるほど見てきたし、ベッドを共にする相手に困ったことなど一度もない。泉美も、その他大勢と変わらないはずだった。

だが、くそっ、なぜ彼女のことが頭から離れない?

厨房で震えていた姿。俺に「怖くありません」と言い放った時の、あの挑戦的な瞳。柔らかな唇。その身体の温もり……。

グラスを叩きつけると、ウィスキーがデスクに飛び散った...

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