第2章
その日の朝は、念入りに身支度を整えた。一張羅の黒いスーツ。法廷で自分を強く見せてくれる、あのスーツだ。もう一度拓真に会うのなら、昨日着ていた皺だらけのブレザーやコーヒーの染みがついたシャツ姿ではごめんだ。
七時四十五分に着くと、コーヒーカートは昨日とまったく同じ場所にあった。今度は行列はなかった。ただ拓真が、小さな銀色の箱の中で、黙々と紙コップを並べているだけだった。
私が近づくと、彼が顔を上げた。その目に何かがよぎったのが見えた。驚き? それとも安堵? 分からなかった。
「またいらしたんですね」と彼が言った。
「どうやらね」私は腕を組んだ。「今日は違うものを試したくて」
彼の眉がわずかに上がる。「ええ」
「ダーティ・チャイティーラテを。オーツミルクで、シロップは半分。エクストラホットにして、エスプレッソのダブルショットを追加。それから上にシナモンをかけて」私は一息つき、彼の顔を見つめた。「できる?」
馬鹿げた注文だった。複雑で、やけに具体的で、そしてそれは、私たちが付き合っていた二年目に、司法試験のストレスで参っていた私が考え出した飲み物そのものだった。私を本当によく知る人間にしか、到底覚えているはずのない注文。
拓真はしばし私をじっと見つめていた。やがて、何も言わずにくるりと背を向け、作業を始めた。
カートの中で動く彼を目で追う。その手つきは素早く、自信に満ちていた。チャイの濃縮液、オーツミルク、エスプレッソショット。一度もためらうことなく、確認を求めることもない。すべての手順が、寸分たがわず正確だった。
再びこちらを向いた彼の手に、完璧な一杯が握られていた。蓋の小さな飲み口から湯気が立ち上り、フォームの上にはシナモンが薄くかかっているのが見える。
「ストレス解消用のドリンク、一つ」彼は静かに言った。
喉が締め付けられた。「覚えててくれたんだ」
「大事なことは、全部覚えてる」
その言い方に、胸が痛んだ。柔らかく、優しささえ感じさせる声。昨日の冷たい事務的な態度とはまるで違う。
私は目を逸らした。こんな風に見つめられると、まるで時間が巻き戻ったみたいで、混乱する。
震える手でカップを受け取り、唇に運ぶ。最初の一口は、完璧だった。かつて家で私が作っていた通りの味。期末試験の週、私が疲れ果ててベッドから出られない時に、彼が覚えてくれた作り方そのものだった。
「ありがとう」と、私はささやいた。
気まずい沈黙の中、私たちはそこに立ち尽くした。もう行くべきだ。コーヒーを受け取って職場へ向かい、こんなことは何もなかったことにするべきだ。
なのに、私は気づけば彼のことをまじまじと見つめていた。
「ひどい顔」思わず口から出ていた。
彼は笑ったが、楽しそうな響きはなかった。「どうも。君は元気そうだ」
「やめて」
「何が?」
「そういうのやめて。明らかにあなたが――」私は彼と、カートと、その場のすべてを曖昧に示すように身振りをした。「ここで何してるの、拓真?」
彼の表情が再びこわばる。「仕事だ」
「あなたの仕事じゃないでしょう」
「今は、これが仕事なんだ」
もっと問い詰めたかったが、彼の口調にそれ以上は踏み込むなという響きがあった。代わりに、私は周囲を見回し、初めてこの場所をじっくりと観察した。
コーヒーカートは奇妙な角度で置かれていた。主な人通りに面しているのではなく、交差点の方を向いている。まるで、何か特定のものを監視しているかのように。
それに、昨日の客たち――今思えば、全員が男だった。高そうなスーツを着た、ビジネスマン風の。普通のサラリーマンとは違う、どこか緊張した空気を纏った男たち。
検察官としての勘が、何かがおかしいと告げていた。
「コーヒーカートを置くには、変わった場所ね」私は何気ないふうに言った。
「そうか?」
「普通の屋台なら、朝の通勤ラッシュを狙うものよ。この角は人通りが少ないわ」
拓真の顎に力が入る。「静かなのが好きなんだ」
何か言い返そうとしたとき、携帯が震えた。仕事だ。そうだ。二十分前には事務所に着いていなければならなかった。
「行かなきゃ」私は渋々言った。
「またな」
その言い方には、どこか決定的な響きがあった。まるで別れの挨拶のように。
「拓真――」
「良い一日を、美琴」
完璧なコーヒーをまだ手に持ったまま、私はカートから後ずさった。頭の中は疑問でいっぱいだったが、無理やり背を向けて裁判所の方へ歩き出した。
午前中は、事件ファイルと裁判の準備であっという間に過ぎていった。デスクに置かれたばかりの、新しいドメスティック・バイオレンスの案件があった――千葉沙羅対夫、誠一。
ファイルを開く。写真が目に飛び込んできた。あざだらけの腕、腫れ上がった頬。よくある話だ。長年の虐待がエスカレートし、ついに彼女が告訴に踏み切ったのだ。
だが、被告の職業欄を見た瞬間、手が止まった。
千葉誠一。職業:会社経営。会社名:千葉コーヒーエンタープライズ。
私は書類を凝視した。コーヒー事業。青海市で。
偶然かもしれない。青海市にはコーヒー関連の事業は何百とある。だが、私の検察官としての直感が、激しく警鐘を鳴らしていた。
コンピューターで会社の記録を検索する。千葉コーヒーエンタープライズは、ダウンタウン地区に十二台の移動式コーヒーカートを所有していた。そのすべてが、ウェブサイト曰く「戦略的ビジネスロケーション」に配置されている。
思考を遮るように、電話が鳴った。
「泉美琴です」
「泉さん? 青海署の松田刑事です。千葉さんの件でお電話しました」
「何か?」
「進展がありました。お会いしたいのですが」
一時間後、私は再び松ノ木通りに戻っていた。近くのカフェで松田刑事に会うため、拓真のコーヒーカートの前を通り過ぎる。見ないようにしようとしたが、無理だった。
拓真は客の応対をしていた――またしても、高そうなスーツを着た男だ。二人は低い声で話しており、その身のこなしにはどこか違和感があった。馴れ馴れしすぎる。単なるコーヒーの売買にしては、真剣すぎる。
私が通り過ぎる瞬間、拓真が顔を上げて私と視線を合わせた。一瞬、彼の表情は無防備だった。心配しているような。怯えているような。
それから彼はカウンター越しに身を乗り出し、男にコーヒーを手渡した。
「気をつけろ、美琴」私が通り過ぎる際に、彼は静かに言った。「見た目より危険なものもある」
私は足を止めた。振り返る。だが彼はすでに次の客に集中しており、何事もなかったかのように振る舞っていた。
ふと周りを見回すと、その光景を見ている別の人物に気がついた。三十フィートほど離れたバス停のそばに立つ、黒いコートの女。バスを待っている様子ではない。彼女の注意は、完全に拓真のカートに注がれていた。
心臓が速鐘を打ち始めた。
松田刑事は、多くのことを語ってはくれなかった――ただ、さらなる質問と、「警戒を怠らないように」という曖奇昧な警告だけだ。
行き詰まりだらけのフォルダーと、拭い去れない不安な気持ちを抱えて、私はカフェを後にした。
デスクに戻り、仕事に集中しようとしたが、心は拓真のこと、バス停の女のこと、そして彼のあの目のことでいっぱいだった。
昼休み、私は決断した。
職業上の好奇心よ、とコートを手に取りながら自分に言い聞かせた。これは、ただそれだけのこと。
私はコートを掴むと、再び松ノ木通りへと向かった。
