第5章

百合子視点

「どうして私がここにいるってわかったの?」

「元妻がどこにいるか、俺が把握していないとでも思ったか?」

彼の声は平坦だったが、その下には何か――鋭い何かが潜んでいた。

私はバックパックのストラップを握りしめる。誠一郎が車からこちらへ歩いてくる。一歩一歩が、計算された動きだ。彼は二メートルほど手前で立ち止まった。

「どうだ、元気でやってるか?」

まるで天気の話でもするかのように。見え透いた気遣いだ。

「あなたには関係ないことよ」

「舞台に立つんだってな。大した度胸だ」

彼は言葉を切り、口の端を冷ややかに歪めた。

「そして、かなり甘い」

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