第8章

百合子視点

十月の海浜市の夜。涼しくて、静か。

私たちはシアターの屋上へ登る。

眼下には街の灯りがきらめいている。まだ中のパーティーの音も聞こえるけれど、ここには私たちだけ。

「さっきの、あの三秒の沈黙? 私、大失敗したかと思った」

「あれは失敗じゃない。ただ、観客が今見たものを理解しようとしてただけだ」

私は彼の方を振り向く。「あなたがいなかったら、ここまで来れなかった」

「いいえ。これはお前が努力した結果だ」

「でも、誰も信じてくれなかった時、あなたは私を信じてくれた」

「百合子」彼が私に向き直る。「俺に借りなんてない。分かったな?」

私は首を横...

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