第106章

「じゃあ、先に行くね」

紫苑は車のほうへ歩きながら、ぶつぶつとこぼした。

「こんな短い時間でも迎えを寄こすとかさ。お互い何とも思ってないって言われても、誰が信じるの?」

大股でさっさと進むくせに、その声だけはひそひそと、松原南の耳に滑り込んでくる。

……なによ、それ。

松原南は目を伏せたまま、藤原傑が寄こした車に乗り込む。耳のあたりが、じわりと熱い。

藤原傑と自分が、そんな関係なわけがない。

もし、万が一にもそうだったら――

眉を寄せ、考えるのをやめた。

まだそこまで遅い時間ではない。けれど松原南が藤原家に着いた頃には、クルミはもう二人に連れられて寝室へ行ったあとだった。

...

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