第144章

松原南は、彼女を見なかった。

視線を落とし、目の前の原稿用紙をぱらりとめくって確認する。――一枚、下書きが足りない。

さっきの中断時間。人がどっと動いた隙に、誰かが彼女の作業台から、描きかけのラフを一枚抜き取ったのだ。

そこにあるのは完成したデザインではない。断片的な発想と、構造の分解メモみたいなもの。単体で見れば、価値は薄い。

けれど松原南には、あの紙がどこへ行ったのか想像がついた。

――「すり替え」の準備。

彼女は残りの原稿を整え、もう一度ペンを取って描き続けた。

それから二時間。

両者はそれぞれの作品を仕上げた。

白原明子が描いたのは、蝶の羽化を核に据えたドレスデザイ...

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