第29章

町谷勝矢は、距離の取り方を心得ていた。

松原南が場所を伝えたきり窓の外を見つめて黙り込んでも、鬱陶しく横でぺちゃくちゃ喋ったりはしない。

「今日は助かった。今度、時間が合ったらまた」

松原南は車を降り、彼に向かって軽く手を振ると、迷いなく会社の中へ入っていった。

だからこそ、背後からいつまでも注がれていた視線に気づけなかった。

仕事に捕まった松原南はどうにも手が離せず、介護士にメッセージを送るしかない。

だが、クルミの病室には不意の来客が現れていた。

江村成宏は苛立ちまぎれにスマホの画面を叩き、乱暴に電源を落とす。機嫌の悪さが顔に張りついている。

――松原南め、俺をブロックし...

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