第58章

ふと。

藤原傑が、いつの間にか足を止めていた。

松原南は気づかず、その広い背中にまともにぶつかる。鼻の奥がツンと痛んだ。

「どうしたんですか? 何か、やり残したことでも?」

痛む鼻をさすり、目尻ににじんだ涙を誤魔化す。

けれど藤原傑は答えず、視線を落とすと、彼女の傷めた右手を静かに取り上げた。白く細い手首を、探るように軽く揉む。

「――っ」

不意を突かれ、痛みに息を呑む。「な、何を……なさるんですか?」

奥歯を噛み、涙を含んだ目で見上げる姿は、どこか守ってやりたくなるほど頼りない。

藤原傑は背が高い。覆いかぶさるような距離になり、松原南は抱き寄せられたみたいに感じた。

空...

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