第79章

男の手が、じりじりと近づいてくる。けれど松原南は、もうただ黙って受け身で耐えるだけの女じゃなかった。

言い換えれば――。

結婚を手放した彼女は、結婚前の自分へと戻っていた。昔のまま、派手で奔放で、誰の思いどおりにもならない。

反射的に足をずらし、矢のように後ろへ跳ぶ。速い。これなら平手打ちをかわしきれる可能性は高い。

だが、彼女より速い者がいた。

江村成宏は最初から動きを読んでいたかのように、松原南が反応しきる前に腕を伸ばし、その細い手首をぎゅっと掴み上げる。逃げ場を奪われた瞬間、平手が頬に叩きつけられた。

「パァン!」

乾いた音が、やけに大きく響いた。

松原南の顔は横へ弾か...

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