第97章

「ジュッ——」

強い腐食性を持つ液体が床にぶちまけられ、ぞっとする音を立てた。

松原南は瞳孔をわずかに見開く。肘がざらついた壁を擦った痛みが、逆に意識を冴えさせた。

――硫酸だ。

いったい誰が、ここまで残酷な真似を。こんな深い傷を負わせるつもりだったのか。

神経を張り詰めたまま、南は硫酸が飛んできた方向へ視線を上げる。次が来ても、すぐ避けられるように。

だが顔を上げた瞬間、周囲からどっと人が押し寄せ、黒いパーカーの男を取り囲んで地面へ押さえつけた。

「松原さん、いまのお加減はいかがですか」

群衆の中から一人が南のほうへ歩み寄り、腰を折って丁寧に言う。

「若様が先ほど異変に気...

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